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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)9213号 判決

原告

唐木田俊介

ほか二名

被告

柳河伸幸

ほか一名

主文

被告らは各自、原告唐木田俊介に対し金一七〇万七〇〇四円及び内金一五五万七〇〇四円に対する昭和六〇年一一月一〇日から完済まで年五分の金員を、原告西田弓子に対し金一八三万一九九六円及び内金一六八万一九九六円に対する右同日から年五分の金員を、原告唐木田久子に対し金四三一万〇〇三一円及び内金三九一万〇〇三一円に右同日から完済まで年五分の金員を支払え。

被告柳河伸幸は原告唐木田俊介に対し、金一三三万六五〇〇円及び内金一一八万六五〇〇円に対する右同日から完済まで年五分の金員を支払え。

原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は五分し、その四を原告らの、その余を被告らの各負担とする。

この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一(当事者の求める裁判)

一  原告ら

1  被告らは各自原告唐木田俊介(以下「原告俊介」という。)に対し、一六七八万九〇八六円及び内金一五二六万九〇八六円に対する昭和六〇円一一月一〇日から完済まで年五分の金員を支払え。

2  被告らは各自原告西田弓子(以下「原告弓子」という。)に対し、九四一万四七九一円及び内金八五六万四七九一円に対する昭和六〇年一一月一〇日から完済まで年五分の金員を支払え。

3  被告らは各自原告唐木田久子(以下「原告久子」という。)に対し、八二一万〇七三三円及び内金七四七万〇七三三円に対する昭和六〇年一一月一〇日から完済まで年五分の金員を支払え。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

5  仮執行の宣言

二  被告(各自)

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二(当事者の主張)

一  請求の原因

1  (事故の発生)

原告俊介は、昭和六〇年一一月一〇日午後一二時二五分ころ東京都西多摩郡奥多摩町河内六六七番地先路上(以下「本件事故現場」という。)を奥多摩方面から五日市方面に向け、その所有に係る普通乗用自動車(以下「被害車両」という。)を助手席に妻の原告久子を、その後部座席に長女原告弓子を乗車させ、時速約三五キロメートルで運転進行していたところ、折から対向車線を走行してきた被告柳河伸幸(以下「被告伸幸」という。)運転の普通乗用自動車(練馬五八ら二三八三号、以下「加害車両」という。)が中央線を越えて被害車両の進行車線上にはみ出し、その右前部に加害車両の前部を衝突させた(以下「本件事故」という。)。

2  (被告らの責任)

被告伸幸は、加害車両を自己のために運行の用に供していた者であり、かつ、車両の運転者としては対向車線に進入してはならない注意義務を負つていたにもかかわらず、これを怠り前示のように対向車線に進入した過失により本件事故を惹起させたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条本文及び民法七〇九条に基づき、本件事故により原告らが被つた後記損害を賠償すべき責任があり、また、被告孝昌は、加害車両の保有者であるから、自賠法三条本文に基づき、本件事故により原告らが被つた後記人身損害を賠償すべき責任がある。

3  (原告らの損害)

(一) 原告俊介の損害

(イ) 原告俊介は、本件事故により、胸部打撲、頭部打撲、頸椎捻挫、頸髄損傷、左足及び右手挫傷の傷害を受けた。

原告俊介は、〈1〉右傷害の治療のため、治療費二四万九六八四円を支出し、〈2〉右傷害治療の間慰藉料五三万円相当の精神的苦痛を被り、〈3〉また、自動車損害賠償保障法執行令二条別表障害別等級表(以下「自賠法執行令二条等級表」という。)所定の一二級に該当する頸髄損傷の後遺障害が残存するに至つたところ(昭和六二年二月一六日に症状固定)、本件事故当時、九四二万二二八〇円の年収を得ていたものであり、また、年齢は五六歳であつて六七歳までの一一年間一四パーセントの労働能力を喪失したものであるから、同原告の後遺障害による逸失利益の本件事故時の現価は一〇四八万〇四二〇円となり、〈4〉更に、右後遺障害が残存するに至つたため慰藉料二四〇万円相当の精神的苦痛を被り、〈5〉本件事故により後記のように同原告の妻及び長女が入院することを余儀なくされ、身の回りの世話を自分ですることができなかつたため、加納トシノに依頼し、同人に対しその報酬として一四万四〇〇〇円の支払いをし、右各同額の損害を被つた。

(ロ) 原告俊介は、本件事故により、〈1〉牛革ベレー帽(八〇〇〇円相当)、ダウンジャケツト(二万八〇〇〇円相当)、ドライブ用革手袋(三〇〇〇円相当)、ウールズボン(一万五〇〇〇円)、ズボン下(二五〇〇円)、サングラス(二万五〇〇〇円相当)及び小型懐中電灯(一五〇〇円相当)を損傷又は紛失し、右同額の損害を被り、また、〈2〉加害車両が本件事故により全損状態となつたため、本件事故時における加害車両の価格八五万五〇〇〇円相当の損害を被つたほか、新車購入の昭和六〇年一二月一六日まで他の交通手段により交通せざるをえなかつたことにより一日三〇〇〇円合計一〇万八〇〇〇円を支出して同額の損害を被り、被害車両の本件事故現場から移動させるために一万九九〇〇円の支出をし、新車買い換えのため、自動車取得税七万六八五〇円、自動車重量税三万七八〇〇円、自動車車庫証明費用一万〇五〇〇円、自動車登録費用一万八〇〇〇円、自賠責保険料六万〇四五〇円、自動車納車費用八七〇〇円相当の損害を被つた。

(ハ) 被告らは、原告らが本件事故により精神的・肉体的苦痛を被つているにもかかわらず、被告伸幸が二回見舞つたに過ぎず、被告孝昌は一回も見舞うことをせず、損害の賠償についても全く誠意を見せないから、原告俊介は慰藉料を通常より一四六万五〇〇〇円増額して請求する。

(ニ) 原告俊介は、被告らが本件事故に基づく同原告の損害の賠償に任意に応じないので、原告ら訴訟代理人に対し、本訴の提起・追行を委任し、費用及び報酬として合計一六四万円の支払いを約した。

(二) 原告弓子の損害

(イ) 原告弓子は、本件事故により、頭部・胸・背部打撲、右下肢打撲及び頸髄損傷の傷害を受けた。

原告弓子は、〈1〉右傷害の治療のため、治療費二万〇〇一〇円を支出し、〈2〉右傷害治療のため、本件事故の日から昭和六〇年一一月一九日まで一〇日間入院し、症状の固定した昭和六二年三月二日までの四六八日間にわたつて通院することを余儀なくされ(実通院日数二〇日間)、この間慰藉料四六万八六〇〇円相当の精神的苦痛を被り、〈3〉また、右入院の間一万二〇〇〇円(一日当たり一二〇〇円、一〇日分)の雑費を要し、〈4〉右入院のため、勤務を欠勤し、これにより給与から二〇万〇二八六円差し引かれて同額の損害を被り、〈5〉治療後もなお自賠法施行令二条等級表の一四級に該当する頭部打撲による脳損傷の後遺障害が残存するに至つたものであるところ(昭和六二年三月二日に症状固定)、本件事故当時、同原告の年収は五八九万三八四三円であり、年齢は二八歳であつたから、同原告の後遺障害による逸失利益の本件事故時における現価は六二七万九五九五円となり、〈6〉更に右後遺障害が残存するに至つたため慰藉料九〇万円相当の精神的苦痛を被つた。

(ロ) 原告弓子は、本件事故により、革靴(一万円)、トレーナー(八〇〇〇円)、靴下(一〇〇〇円)及びジーンズ(八〇〇〇円)の使用が不能となつたため、右金額相当の損害を被つた。

(ハ) 原告弓子は、原告俊介と同様、被告らの不誠実な態度を理由として慰藉料の加算として、六八万四三〇〇円を請求する。

(ニ) 原告弓子は、原告俊介と同様、本訴の提起・追行のための弁護士費用八五万円を本件事故と相当因果関係があるものとして請求する。

(三) 原告久子の損害

(イ) 原告久子は、本件事故により肋骨五本骨折、血胸、全身打撲、左外傷膝関節炎の傷害を受けた。

同原告は、〈1〉右傷害治療のため、治療費五万六八三〇円を支出し、〈2〉右傷害治療のため、昭和六一年一月一六日まで六八日間入院し、症状の固定した昭和六三年二月二三日までの間七六八日間にわたつて通院し(実通院日数六〇日)、この間慰藉料二二四万円相当の精神的苦痛を被り、〈3〉また、右入院の間八万一六〇〇円(一日当たり一二〇〇円、六八日分)の雑費を要し、〈4〉右入院期間中家事に従事することが不可能であり、また、退院後も二月間は四割程度しか家事ができなかつたものであるところ、全く家事に従事できなかつたことによる一日当たりの損害は五〇〇〇円であり、加納トシに家事を依頼した一三日を除いて、家事従事不可能損害を算定すると四五万五〇〇〇円となり、〈5〉本件事故当時国立療養所東京病院に勤務していたが本件事故の日から昭和六一年二月一四日まで欠勤を余儀なくされたため、付加給(超過勤務手当及び夜間看護手当)合計一四万九一七九円(当時の一月の付加給平均額四万六一三八円をもとに算定した額)の支給を受けることができず、同年六月分の勤務手当が三万二一三二円減額され、定期昇級が三月延伸となり、同原告の退職予定時までの六年間毎年一月少なくとも六二〇〇円合計九万五四九二円、の各損害を被り、〈6〉自賠法施行令二条等級表一四級に該当する後遺障害が残存するに至つたものであるところ、本件事故当時、同原告の年収は六〇〇万四五八八円であり、年齢は五五歳であつたから、同原告の後遺障害による逸失利益の本件事故時における現価は二七六万四五〇〇円となり、〈7〉更に右後遺障害が残存するに至つたため慰藉料九〇万円相当の精神的苦痛を被つた。

(ロ) 原告久子は、本件事故により、眼鏡(九万五〇〇〇円)、革靴(一万五〇〇〇円)、ニツト上下(三万円)、カーディガン(三万円)、靴下(一〇〇〇円)、スリツプ(八〇〇〇円)、ハンドバツグ(七〇〇〇円)、ポツト(一万円)及び籐製の籠(五〇〇〇円)がいずれも使用不能となり合計二〇万一〇〇〇円の損害を被つた。

(ハ) 原告久子は、原告俊介と同様、被告らの不誠実な態度を理由として慰藉料の加算として、六九万六〇〇〇円を請求する。

(ニ) 原告久子は、原告俊介と同様、本訴の提起・追行のための弁護士費用七六万円を本件事故と相当因果関係があるものとして請求する。

4  よつて、原告らは被告らに対し、請求の趣旨のとおりの判決を求める。

二  被告の答弁及び抗弁

1  請求原因1の事実のうち被害車両の速度が原告主張のとおりであることは知らないが、その余の事実は認める。同2の事実及び主張は認める。同3(一)の事実のうち、原告俊介が本件事故により胸部打撲、頭部打撲、頸椎捻挫、左足及び右手挫傷の傷害を負つたことは認めるが、頸髄損傷を負つたことは否認し、その余の事実はいずれも争う。同3(二)の事実のうち、原告弓子が本件事故により頭部・胸・背部打撲、右下肢打撲の傷害を負つたこと、同原告がその主張の期間入院したことは認めるが、頸髄損傷を負つたことは否認し、その余の事実はいずれも争う。同3(三)の事実のうち、原告久子が本件事故により肋骨骨折の傷害を負つたこと、同原告がその主張の期間入院したことは認めるが、その余の事実はいずれも争う。

2  被告らは、本件事故に基づく損害賠償債務の弁済として、原告俊介に対し三万五六八〇円、原告弓子に対し五万〇三〇〇円、原告久子に対し八万八七一〇円の支払いをした。

第三(証拠関係)

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一1  請求原因1の事実のうち被害車両の速度の点を除くその余の事実並びに同2の事実及び主張はいずれも当事者間に争いがなく、また、同3(一)の事実のうち、原告俊介が本件事故により胸部打撲、頭部打撲、頸椎捻挫、左足及び右手挫傷の傷害を負つたこと、同(二)の事実のうち、原告弓子が本件事故により頭部・胸・背部打撲、右下肢打撲の傷害を負つたこと、同原告がその主張の期間入院したこと、同(三)の事実のうち、原告久子が本件事故により肋骨骨折の傷害を負つたこと、同原告がその主張の期間入院したことも、当事者間に争いがない。

2  真正に成立したことについて当事者間に争いのない甲第一、二号証の各一、二並びに原告俊介、同弓子及び同久子各本人尋問の結果を総合すると、本件事故は、原告俊介が、被害車両を毎時約三五キロメートルで走行させているときに生じたものであること、本件事故の衝撃により、原告俊介は瞬時意識を失い、助手席に乗車していた原告久子はフロントガラスを破つて車外に飛び出し道路上にうつ伏せになつて横たわる状態となり、助手席後部座席に乗車していた原告弓子は後部座席にうずくまるような状態となつてしばらく意識が消失していたこと、加害車両と被害車両とはいずれも前部が大破したことをそれぞれ認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はなく、右認定の事実によると、本件事故により原告らはかなりの衝撃を受けたものと推認することができる。

二  そこで、原告らの損害について判断することとする。

1  (原告俊介の損害)

(一)(1)  その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正に成立したものと推定される甲第三号証の一、二、同第二六号証の一、二、同第二七号証及び同第三二号証、真正に成立したことについて当事者間に争いがない乙第七号証の三、原告俊介本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告俊介は、本件事故により前記争いのない傷害を被つたほか、第八頸髄に損傷を被り、国立療養所東京病院等において治療(医師の指示のもとに頸部痛治療のための鍼灸治療も含む。)を受けたが、昭和六二年二月一六日症状が固定し筋力低下、知覚障害、腱反射異常、頸部痛の後遺障害(以下「原告俊介の後遺障害」という。)が残存するに至つたことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(2)  前掲証拠並びに原告俊介本人尋問の結果により真正に成立したことを認めることができる甲第五号証(原本の存在・成立を含む。)、同第三三号証の一ないし三五及び同第三八号証を総合すると、原告俊介は、〈1〉本件事故により被つた傷害の治療のため合計二四万八六八四円の支出をし右同額の損害を被つたこと、〈2〉本件事故後の昭和六〇年一一月一〇日から同月二二日までの一三日間原告らが本件事故により傷害を負つたため、加納トシノに自己の介護と家事を委託し、その報酬として合計一四万四〇〇〇円を支払い右同額の損害を被つたこと、〈3〉本件事故により前記傷害を被り、かつ、原告俊介の後遺障害が残存するに至つたため、多大の精神的苦痛を被つたこと等を認めることができ、これらの認定を覆すに足りる証拠はない。

原告俊介は、その後遺障害が残存するに至つたため得べかりし利益を喪失した旨主張するが、同原告が本件事故後給与等を減額されたこと、減額されなかつたことが同原告の特別な努力によるものであることをいずれも認めるに足りる証拠はないから、右主張は採用することはできないものというべきであり、同原告の後遺障害による労働過程上の障害及び苦痛は慰藉料算定に当たつて考慮するのが相当である。

(二)(1)  原告俊介は、本件事故により、牛革ベレー帽(八〇〇〇円相当)、ダウンジャケツト(二万八〇〇〇円相当)、ドライブ用革手袋(三〇〇〇円相当)、ウールズボン(一万五〇〇〇円)、ズボン下(二五〇〇円)、サングラス(二万五〇〇〇円相当)及び小型懐中電灯(一五〇〇円相当)を損傷又は紛失し、右各同額の損害を被つた旨主張し、原告俊介本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したことを認めることができる甲第二九号証によれば、同原告が本件事故により右各物件の損傷を受け又は紛失したことを認めることができるが、右各物件の本件事故当時における残存価格又は再調達価格を確定する足りる証拠はなく、また、右のような身回り品の損傷又は紛失による使用価値の喪失は慰藉料の算定に当たつて考慮するのが相当であるから、原告俊介の右物件に関する損害の主張は採用することができない。

(2)  原告俊介本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したことを認めることができる甲第一九号証、原本の存在・成立について当事者間に争いのない甲第二〇号証並びに弁論の全趣旨によると、原告俊介は、本件事故により同原告所有に係る被害車両が全損状態となつたため、〈1〉本件事故当時における被害車両の価格八五万五〇〇〇円相当の損害を被つたこと、〈2〉新車を購入した昭和六〇年一二月一六日までの間他の交通手段を利用せざるをえなかつたため、少なくとも一日三〇〇〇円合計一〇万八〇〇〇円の支出を余儀なくされ、右同額の損害を被つたこと、〈3〉被害車両を本件事故現場から移動させるための費用として一万九九〇〇円の支出をし、右同額の損害を被つたことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

原告俊介本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したことを認めることができる甲第一八号証によると、原告俊介は、被害車両が本件事故により全損状態となり新車を買うことを余儀なくされ、そのため、自動車取得税七万六八五〇円、自動車重量税三万七八〇〇円、自動車車庫証明費用一万〇五〇〇円、自動車登録費用一万八〇〇〇円、自賠責保険料六万〇四五〇円、自動車納車費用八七〇〇円の支出をし、右各同額の損害被つたことを認めることができる。右のうち、自賠責保険料に関する損害は、被害車両について支払われていた自賠責保険料のうち被害車両の廃車時より後の未経過分については原告俊介において返還を求めることができるから(自賠責保険約款一三条)、損益相殺の理により、原告俊介が本件事故後被害車両が全損状態であることを知るに至つた時から合理的な期間内において廃車の手続きをしたときに返還を求めうる未経過分の保険料額は前記損害から控除すべきものというべきであるが、被告らにおいて右未経過分の保険料額を確定するに足りる事実の主張・立証をせず、前掲甲第一九号証及びその余の本件全証拠をもつてしてもこれを確定するに足りないから、前記新車についての自賠責保険料額を本件事故と相当因果関係のある損害と認めることとする。その余の右各支出は、いずれも必要かつ相当な金額であるといえるから、本件事故と相当因果関係があるものというべきである。

(三)  既に認定した本件事故の態様、原告俊介の傷害及び後遺障害の程度等のほか本件に顕われた一切の事情に照らすと、原告俊介が本件事故により被つた精神的苦痛を慰藉するためには一二〇万円の慰藉料をもつてするのが相当である。

原告俊介は、被告らの本件事故後の対応に誠意がないこと等を理由として、慰藉料は通常より増額されるべきである旨主張するが、右慰藉料額を算定するに当たつて考慮した事由以上に更に特に増額すべき事由はこれを認めるに足りないから、右主張は採用することができない。

(四)  原告俊介主張の弁護士費用に関する損害については、他の原告らのそれとまとめて判断することとする。

2  (原告弓子の損害)

(一)(1)  いずれもその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正に成立したものと推定される甲第九、一〇号証及び同第一一号証の一、二、真正に成立したことについて当事者間に争いがない乙第七号証の一並びに原告弓子本人尋問の結果を総合すると、原告弓子は、本件事故により前記争いのない傷害を被つたほか頸髄損傷を被り、奥多摩病院及び目白第二病院において救急治療を受けた後国立療養所東京病院において本件事故の日から昭和六〇年一一月一九日まで入院して治療を受け、退院後も通院して治療を受け、昭和六二年三月二日記銘力低下、時々ぼーとする等の後遺障害(以下「原告弓子の後遺障害」という。)を残して症状が固定したことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(2)  前掲証拠並びにその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正に成立したものと推定される甲第三四号証の一ないし五及び同七ないし一三、弁論の全趣旨により真正に成立したことが認められる同第一二、一三号証、同第二八号証及び同第三四号証の六を総合すると、原告弓子は、〈1〉本件事故により負つた前記傷害の治療のため、合計二万〇〇一〇円の支出をし、右同額の損害を被つたこと、〈2〉前記入院期間中一日当たり少なくとも一二〇〇円合計一万二〇〇〇円の雑費を支出し、右同額の損害を被つたこと、〈3〉右入院期間中勤務先である医療法人弘進会を欠勤することを余儀なくされたため、二〇万〇二八六円の給与の支給を受けることができず、右同額の損害を被つたこと、〈4〉本件事故により前記傷害を被り、かつ、原告弓子の後遺障害が残存するに至つたため、多大の精神的苦痛を受けたことをそれぞれ認めることができ、これを左右するに足りる証拠はない。

原告弓子は、その後遺障害が残存するに至つたため得べかりし利益を喪失した旨主張するが、同原告が本件事故後前記の勤務先から給与等の減額をされたこと、減額されなかつたことが同原告の特別な努力によつてであることを認めるに足りる証拠はないから、右主張は採用することはできないものというべきである。

(二)  原告弓子は、本件事故より革靴(一万円)、トレーナー(八〇〇〇円)、靴下(一〇〇〇円)及びジーンズ(八〇〇〇円)の使用が不能となつたため、右金額相当の損害を被つた旨主張し、原告弓子本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したことを認めることができる甲第三〇号証によれば、本件事故により右各物件が使用不能となつたことを認めることができるが、右各物件の本件事故当時における残存価格又は再調達価格を確定する足りる証拠はなく、また、右のような身回り品の損傷又は紛失による使用価値の喪失は慰藉料額の算定に当たつて考慮するのが相当であるから、原告弓子の右物件に関する損害の主張は採用することができない。

(三)  既に認定した本件事故の態様、原告弓子の傷害及び後遺障害の程度等のほか本件に顕われた一切の事情に照らすと、原告弓子が本件事故により被つた精神的苦痛を慰藉するためには一五〇万円の慰藉料をもつてするのが相当である。

原告弓子は、被告らの本件事故後の対応には誠意がないこと等を理由として、慰藉料は通常より増額されるべきである旨主張するが、右慰藉料額を算定するに当たつて考慮した事由以上に更に特に増額すべき事由はこれを認めるに足りないから、右主張は採用することができない。

(四)  原告弓子主張の弁護士費用に関する損害については、他の原告らのそれとまとめて判断することとする。

3  (原告久子の損害)

(一)(1)  いずれもその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正に成立したものと推定される甲第一四、一五号証及び同第二二号証(原本の存在及び成立を含む。)、真正に成立したことについて当事者間に争いがない乙第七号証の二、原告久子本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告弓子は、本件事故により前記争いのない傷害を被つたほか、血胸、全身打撲及び左外傷膝関節炎の傷害を被り、国立療養所東京病院において本件事故当日から昭和六一年一月一六日まで入院し、退院後も昭和六三年二月二三日までの間通院して治療を受けたが、右背胸部痛の後遺障害(以下「原告久子の後遺障害」という。)を残して右同日症状が固定したものであるところ、右後遺障害は自動車保険料率算定会調査事務所により自賠法施行令第二条等級表一四級に該当するとの認定を受けたことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(2)  前掲証拠並びに原告久子本人尋問の結果により真正に成立したことを認めることができる甲第一七号証及び同第二五号証、いずれもその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正に成立したものと推定される甲第一六号証(原本の存在・成立を含む。)、同第二七号証、同第三六号証の一ないし二八及び同第三七号証を総合すると、原告久子は、〈1〉本件事故により負つた前記傷害の治療のため合計五万六八三〇円の支出をし、右同額の損害を被つたこと、〈2〉前記六八日間にわたる入院の間一日当たり少なくとも一二〇〇円合計八万一六〇〇円の雑費を支出し、右同額の損害を被つたこと、〈3〉本件事故により傷害を負つたため当時勤務していた国立療養所東京病院を本件事故の日から昭和六一年二月一四日まで欠勤することを余儀なくされ、付加給(超過勤務手当及び夜間看護手当)合計一四万九一七九円(当時の一月の付加給平均額四万六一三八円をもとに算定した額)の支給を受けることができず、同年六月分の勤務手当が三万二一三二円減額され、右各同額の損害を被つたこと、〈4〉本件事故当時、原告久子の年収は六〇〇万四五八八円であり、原告久子はその後遺障害により労働能力の五パーセントを前記症状固定の日から五年間にわたつて喪失したものといえるから、原告久子の後遺障害による逸失利益の本件事故時における現価は一一七万九〇〇〇円となり、右同額の損害を被つたこと、〈5〉本件事故により前記傷害を受け、また、原告久子の後遺障害が残存するに至つたため多大の精神的苦痛を受けたことをそれぞれ認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

原告久子は、定期昇級が三月延伸となつたことにより損害を被つたこと、家事労働に従事できなかつたことにより損害を被つたことを主張するが、これらを的確に認定するに足りる証拠はないから、右主張はいずれも認めることができない。

(二)  原告久子は、本件事故により、眼鏡(九万五〇〇〇円)、革靴(一万五〇〇〇円)、ニツト上下(三万円)、カーデイガン(三万円)、靴下(一〇〇〇円)、スリツプ(八〇〇〇円)、ハンドバツグ(七〇〇〇円)、ポツト(一万円)及び藤製の籠(五〇〇〇円)がいずれも使用不能となつたため、右金額相当の損害を被つた旨主張し、原告久子本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したことを認めることができる甲第三一号証によれば、本件事故により右各物件が使用不能となつたことを認めることができるが、右各物件の本件事故当時における残存価格又は再調達価格を確定する足りる証拠はなく、また、既に説示したように右物品の損傷又は紛失による使用価値の喪失は慰藉料の算定に当たつて考慮するのが相当であるから、原告久子の右物件に関する損害の主張は採用することができない。

(三)  既に認定した本件事故の態様、原告久子の傷害及び後遺障害の程度等のほか本件に顕われた一切の事情に照らすと、原告久子が本件事故により被つた精神的苦痛を慰藉するためには二五〇万円の慰藉料をもつてするのが相当である。原告久子は、被告らの本件事故後の対応には誠意がないこと当を理由として、慰藉料は通常より増額されるべきである旨主張するが、右慰藉料額を算定するに当たつて考慮した事由以上に更に特に増額すべき事由はこれを認めるに足りないから、右主張は採用することができない。

(四)  原告久子主張の弁護士費用に関する損害については、他の原告らのそれとまとめて判断することとする。

4  (損害の填補)

被告らが、本件事故に基づく損害賠償債務(治療費)の弁済として、原告俊介に対し三万五六八〇円、原告弓子に対し五万〇三〇〇円、原告久子に対し八万八七一〇円の支払いをしたことは、右各原告らにおいて明らかに争わないところであるから、自白したものとみなす。

5  (弁護士費用)

弁論の全趣旨によると、被告らが原告らに対する本件事故に基づく損害賠償責務を任意に履行しなかつたため、原告らが原告ら訴訟代理人弁護士に本件訴訟の提起・追行を委任し、その費用及び報酬の支払を約したことを認めることができるところ、本件事案の難易、審理経過、認容額等に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある損害として原告らが被告らに対して請求しうる弁護士費用の額は、原告俊介において三〇万円(但し、人身損害分と物損分とは各一五万円ずつとする。)、原告弓子において一五万円、原告久子において四〇万円と認めるのが相当である。

6  以上認定したところによると、(一)被告らは連帯して、〈1〉原告俊介に対し一七〇万七〇〇四円及び内金一五五万七〇〇四円に対する本件事故の日である昭和六〇年一一月一〇日から完済まで民法所定の年五分の遅延損害金を、〈2〉原告弓子に対し一八三万一九九六円及び内金一六八万一九九六円に対する右同日から完済まで年五分の右遅延損害金を、〈3〉原告久子に対し四三一万〇〇三一円及び内金三九一万〇〇三一円に対する右同日から完済まで年五分の右遅延損害金をそれぞれ支払うべき義務があり、(二)被告伸幸は原告俊介に対し右のほか一三三万六五〇〇円(物損額)及び内金一一八万六五〇〇円に対する右同日から完済まで右年五分の遅延損害金を支払うべき義務があるから、原告らの本訴請求は右の限度で正当として認容すべきであるが、その余は理由がないから、失当として棄却すべきである。

よつて、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 柴田保幸)

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